商標権は不動産のようなものである

商標権は独占権である つまり同じ権利の範囲内に 複数の権利者がいることはない1 国内の有効な商標権の数はおそらく200万件を超えるけど それらは重なり合うことなくきれいに区画整理されて並んでいる そう ちょうど新興住宅街のように!

と言いたいところだけれども現実は違って 誤って登録された権利が多数存在するので 権利が幾十にも重なり合っているだろうし 本来公共用地であるべき土地が私有地になっている というようなことも数多くあるだろう

自分で買った住宅区画に対する権利と同様に 商標権もまたその権利者にその使用・収益・処分に対する 自由な裁量が委ねられている つまり商標権者はそこに住んでも(商標権の使用) その一部または全部を人に貸しても(使用権の付与) また譲ってもいい(商標権の譲渡) もちろん何もせずにそのまま放置したっていい

法は商標権者のこのような自由な活動を保証する必要があるけど それは第三者による その土地の不法侵入を防止するというかたちで実現されている これを商標権者の差止請求権という > > (差止請求権) > 第36条 商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。

つまり商標権に係る商標をその商品・サービスについて 第三者が無断で使用している場合 商標権者はその者に対して その使用を直ちに中止するよう求めることができるし それが受け入れられない場合には 裁判所に打って出ることもできる2

第三者にとってこの権利が恐ろしいのは 商標の場合 土地に対する不法侵入の場合とは違って その侵入者をして「侵入している」という罪の意識が 通常全く無いか極めて薄弱だからである

前に説明したように 商標権は商品・サービスごとに成立するけれども その適用範囲は思いの外広くなることがある そしてその適用範囲の確定は専門家でも容易ではない だから商人が自分の商品に付けた名前が 事前に第三者の権利を侵害しないように そのリスクを最小にするという努力は可能だけれども 侵害しないことを確定させることは不可能である

ネットの登場は個人による商業活動を活発にした 無料のソフトウェアを配布する個人 無料のWebサービスを提供する個人 そしてそれらを支援する個人 それらの無数の個人がネットには存在し 企業による商業製品・サービスと伍し あるいはそれらを凌駕する品質を提供する

しかし一方で 彼らは自分が「商人」つまり 「商取引を行う者」であるという意識はない 彼らにはその提供する物が「商品」つまり 「商取引の品物」であるという意識はない このことが一定のリスクを含んでいることは確かだ しかし実際ネットの出現によってこれらの定義は曖昧になっており 彼らの不知を責めるより それらを再定義することが望まれる解決策なのかもしれない

さて先に進もう

商標権者はさらに不法侵入によって 自らの商売が邪魔され 結果として利益が下がったと考える場合 本来得られたであろう利益を損害として その賠償を求めることもできる

例えば商標権者による「iMod」という商品が 毎月コンスタントに10億円利益を生み出していて 誰かが類似の「iMad」を発売し始めたら 突然利益が7億円に下がったというなら 3億円は「iMad」による商標権者の損害である3 これは不法行為による損害賠償といって民法に規定されている > > (不法行為による損害賠償) > 第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

また「iMad」の販売者の利益が 商標権者の商標「iMod」の知名度故に 得られたものであるならば その利益は商標権者に返還され得る これを不当利得の返還義務という(民法703、704条)

以上をまとめると 商標権は不動産のようなものであり したがって商標権者にはその使用・収益・処分の自由があり 一方で不法侵入者に対しては 事前および事後的に法的な措置を取ることによって その権利の維持および損害の補填を図り得るということだ

(次回に続く?)

  1. 1つの権利を複数で所有する(共有という)ことはある
  2. もちろん中止の求めをしないで直に裁判を起こしてもよい
  3. ええ、わかってます。話が単純すぎますよね


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