引き続き「なぜ関数プログラミングは重要か」を、Rubyを使って解釈し自分の理解に基づいて解説してみます。誤解が有るかも知れません。いやきっとあります。ご指摘いただければ助かります。

プログラムの貼り合せ(遅延評価)

次に関数プログラミングの2つ目の強力な糊、つまりプログラムを貼り合せる糊について説明する。

いま2つのプログラムfとgがあって、入力inputをこれらに適用する場合を考える。

g (f input)

プログラムfは入力inputを受け取ってその出力を計算し、その出力はプログラムgの入力として使われる。

一般的なプログラム言語ではfからの出力を一時的にメモリーに蓄えることでその実装を可能とするが、ケースによってはメモリー占有量が膨大になり得る。

関数プログラミングではプログラムfとgは厳密な同期の上で走る。つまりプログラムfはプログラムgが必要とする分だけ実行されて残りは破棄される。このことからプログラムfは無限に出力を生成し続けるものであってもよい。これによってプログラムの停止条件はループ本体と切り離すことができ、強力なモジュール化が可能になる。

このようなプログラムの評価方式は「遅延評価」と呼ばれる。

ニュートンーラプソン法による平方根

遅延評価の力を使って、ニュートンーラプソン法による平方根のアルゴリズムを求めてみよう。この方法でnの平方根を求めるとき任意の近似値xを選び、xとn/xの平均を取っていくことでより良い近似値xを得る。これを繰り返し十分に良い近似値が得られたら処理を終える。良い近似値かの判断は隣接する近似値の差が許容誤差eps以下であるかにより判断する。

Rubyにおける一般的な実装は以下のようになるだろう。

EPS = 0.0001    # 許容誤差
 A0 = 1.0        # 初期近似値
 def sqrt(n, x=A0, eps = EPS)
   loop do
     y = x
     x = (x + n/x) / 2.0           # 次の近似値
     return x if (x-y).abs < eps
   end
 end
 sqrt 2 # => 1.4142135623746899
 sqrt 5 # => 2.236067977499978
 sqrt 8 # => 2.8284271250498643

この実装ではループの停止条件は、ループに組み込まれてしまって分離できない。遅延評価を使うことによって実装のモジュール化を行い、その部品が他の場面でも使えることを示そう。

基本的にRubyの関数(メソッド)は正格評価であり遅延評価されない。しかし関数をProcやEnumeratorオブジェクトとすることによって、その評価のタイミングを遅らせる。つまり遅延評価させることができる。

まず次の近似値を計算するnext_valを定義しよう。

def next_val
   ->n,x{ (x + n/x) / 2.0 }.curry
 end

next_val1は、求める平方根の数値nと近似値xを取って次の近似値を返すが、これをcurry化されたProcオブジェクトを返すように実装する。これによって、2つの引数を渡すタイミングをコントロールできるようになる。つまり数値nだけを先に渡すことによってnext_valは、1つの引数xを受ける関数に変わる。

例を示そう。

next_for_five = next_val[5]
 nx = next_for_five[1.0] # => 3.0
 nx = next_for_five[nx] # => 2.3333333333333335
 nx = next_for_five[nx] # => 2.238095238095238
 nx = next_for_five[nx] # => 2.2360688956433634

次に初期値に任意の関数を繰り返し適用して、その結果のリストを返す汎用関数repeatを定義しよう。

def repeat(f, x)
   Enumerator.new { |y| loop { y << x; x = f[x] } }
 end

repeat関数は1つの引数を取って1つの結果を返す関数fと、fの初期値となるxを取りEnumeratorオブジェクトを返す。Enumeratorのブロックの中ではloopによってxを関数fに適用した結果が、繰り返しyつまりEnumerator::Yielderオブジェクトに渡されるが、これはEnumeratorオブジェクトが呼び出されるまで実行されず、そのため無限ループにはならない。

このrepeat関数に先のnext_val関数を渡すことによって、平方根nの近似値のリストが得られる。

approxs = repeat next_val[5], 1.0 # => #<Enumerator: #<Enumerator::Generator:0x0a4aec>:each>
 ls = []
 5.times { ls << approxs.next }
 ls # => [1.0, 3.0, 2.3333333333333335, 2.238095238095238, 2.2360688956433634]

Enumeratorオブジェクトはその呼び出し2の度にループを1つ回して結果を1つ返す。repeatはその出力を利用する関数と同期して、それが必要とされる分だけ評価される。つまりrepeatそれ自体は繰り返し回数の制限を持たない。

次に関数with_inを定義しよう。with_inは許容誤差と近似値のリスト3を引数に取り、許容誤差よりも小さい2つの連続する近似値を探す。

def with_in(eps, enum)
   a, b = enum.next, enum.peek
   return b if (a-b).abs <= eps
   with_in(eps, enum)
 end

最初の行でEnumeratorオブジェクトの返す最初の2つの値をnextとpeekでa, bに取る。Enumerator#peekはカーソルを進めないで先頭要素を取る。2行目の終了条件が満たされない限り、処理は再帰的に繰り返えされる。

最後にこれらの部品を使って平方根を求める関数sqrtを定義しよう。

EPS = 0.0001    # 許容誤差
 A0 = 1.0        # 初期近似値
 def sqrt(n, a0=A0, eps=EPS)
   with_in eps, repeat(next_val[n], a0)
 end
 sqrt 2 # => 1.4142135623746899
 sqrt 3 # => 1.7320508100147274
 sqrt 5 # => 2.236067977499978
 sqrt 8 # => 2.8284271250498643

sqrt関数はこのようにしてモジュール化された3つの汎用部品next_val repeat with_inを貼り合せて作ることができた。

sqrt関数はモジュールを合成して構成されているので、プログラムの基本的な構造を変えることなく変更が容易に行える。

今度は、2つの連続する近似値の差がゼロに近づくという条件の代わりに、2つの近似値の比が1に近づくという条件に変えてみよう。これは非常に小さいまたは非常に大きい数に対してはより適切な結果を出す。

この目的を達成するには、関数with_inに代わる関数relativeを定義するだけでよい。

def relative(eps, enum)
   a, b = enum.next, enum.peek
   return b if (a-b).abs <= eps*b.abs
   relative(eps, enum)
 end
 def sqrt(n, a0=A0, eps=EPS)
   relative eps, repeat(next_approx[n], a0)
 end
 sqrt 2 # => 1.4142135623746899
 sqrt 3 # => 1.7320508100147274
 sqrt 5 # => 2.236067977499978
 sqrt 8 # => 2.8284271250498643

他の部品を変えることなく新しいsqrt関数ができた。

(続く?)

  1. nextはRubyの予約語なので使えない
  2. ここではnext
  3. 正確にはリストではなくEnumeratorオブジェクト


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