計算機プログラムの構造と解釈」で末尾再帰というものを知ったので勉強しました。自分の理解を書いてみます。

再帰

再帰呼び出しとはある手続きの中で、再びその手続き自身を呼び出すことと定義される1。でもこの定義は正確じゃない。なぜなら再帰呼び出しは自分自身を呼んでいないからだ。

階乗を考えてみよう。階乗は数学的にこう定義できる。

ふつうRubyで階乗メソッドはこう書く。

def fact(n)
   if n == 1
     1
   else
     n * fact(n-1)
   end
 end
 
 fact 5 #> 120

factメソッドの中でfactメソッドが呼ばれているので、自分自身が呼ばれているように見える。でもそうじゃない。

最初の引数5を受け取ったfactメソッド(彼をfact5と呼ぼう)は、引数4と共に自分が呼んだfactメソッド(fact4)の結果を待たなきゃならない。なぜならその結果と5をあとで掛けなきゃならないからだ。fact4もfact3もfact2も同じだ。自分が呼んだメソッドの結果を待たなきゃならない。

人間が待ちながらその要求に答える、なんて芸当ができないのと同様に、Rubyにだってそんなことはできない。こういうときは誰か他の人に頼むしかない。だからfact4メソッドはfact5とは別人なんだ。fact3もfact2もfact1も全部別人なんだ。

つまり上のコードはメソッド呼び出しに関して、次のコードとほぼ等価だ。

def fact5
   5 * fact4
 end
 
 def fact4
   4 * fact3
 end
 
 def fact3
   3 * fact2
 end
 
 def fact2
   2 * fact1
 end
 
 def fact1
   1
 end
 
 fact5 #> 120

このコードではfact1が結果を返すまで、他のメソッドはRuby空間に止まってることははっきりしてる。これは再帰でも同じだ。各factメソッドは内容は同じだけれども、別のメソッドとしてRuby空間に置かれる。

これはちょうど同じ文字列が、Rubyでは別のオブジェクトとして扱われるのと似ている。

5.times do
   s = 'factorial'
   puts "#{s}(id:#{s.__id__})"
 end
 
 # >> factorial(id:72570)
 # >> factorial(id:72580)
 # >> factorial(id:72560)
 # >> factorial(id:72530)
 # >> factorial(id:72500)

つまりふつうの再帰は自分ではなく、自分とそっくりな人、そう、分身を呼んでいるんだ。

再帰の問題点

同じことをするのに反復手続きがあるのに、なぜ再帰を使う必要があるんだろう。

反復手続きによる階乗メソッドを見てみよう。

def fact(n)
   p = 1
   while n > 1
     p *= n
     n -= 1
   end
   p
 end
 
 p fact 5

これを見れば理由はわかる。そう反復手続きはエレガントじゃない。再帰では階乗の数学的表現をそのまま自然に記述できる。反復手続きではそうはいかない。

でも、再帰はその度に別の手続きを呼び出すのと等価だから、深い再帰では手続きでRuby空間が溢れるという問題が生じる。

fact 10000 #> `fact': stack level too deep (SystemStackError)

末尾再帰で階乗

そこで末尾再帰の出番だ。

ふつうの再帰による階乗を再掲しよう。

def fact(n)
   if n == 1
     1
   else
     n * fact(n-1)
   end
 end
 
 fact 5 #> 120

再帰では手続きが次の手続きの結果を必要としてる。だからRuby空間で結果を待たなきゃならない。上のコードではelse節のnが掛けられるのを待ってる。それが問題になる。

ならば待たないようにすればいい。つまりnを一緒に次のfactに投げちゃえばいい。それで知らぬ顔をしてRuby空間からおさらばする。そうすると困るのは最後のfact(fact1)だけだから、彼に後処理を全部やってもらえばいい。

この考えに基づいたコードはこうなる。

def fact(n, mem=[])
   if n == 1
     mem.inject(:*)     #fact1が配列の要素を全部掛けて返す
   else
     mem << n
     fact(n-1, mem)   #nを配列に入れて次のfactに順次渡す
   end
 end

これによって処理の末尾が再帰だけになるので、値を渡した手続きはもう結果を待たなくていい。最終的な結果は最後の手続きが返してくれる。つまり手続きを呼び出した手続きは、もう必要なくなるので呼び出した手続きとして使える。そう自分自身を使える!

だから末尾再帰こそが真の再帰で、その名に値するんだ。

fact1にすべてをさせるのが酷というなら、各人が自分のところの計算をやって、その結果を投げるようにすればいい。

def fact(n, mem=n)
   if n == 1
     mem
   else
     fact(n-1, mem*(n-1))
   end
 end
 
 fact 5 #> 120

実は残念ながらSchemeとは違って現在のRubyの実装では、この末尾再帰のメリットは受けられないようだ。

fact 10000 #> `fact': stack level too deep (SystemStackError)

末尾再帰によるフィボナッチ

Rubyで末尾再帰を使っても、ふつうの再帰と同様に分身が呼ばれるようだ。

それでもRubyで末尾再帰するメリットはある。

フィボナッチ数を考えよう。n番目のフィボナッチ数は数学的に次のように定義できる。

これをRubyで書くとこうなる。

def fib(n)
   if n == 0
     0
   elsif n == 1
     1
   else
     fib(n-1) + fib(n-2)
   end
 end
 
 fib 10 #> 55

これは数学的記述に従ったエレガントなコードだけれども、末尾再帰になっていない上に末尾の+メソッドは、2つの再帰メソッドfibの結果を待たなきゃならない。呼び出された各メソッドfibはそれぞれにまた2つのfibを呼び、この数はフィボナッチ数的に増える。

すると、高々20番目のフィボナッチ数を求めるのにfibメソッドは21891回も呼ばれることになる。

% ruby -rprofile fib.rb
% cumulative self self total time seconds seconds calls  ms/call  ms/call  name
 69.45     2.16      2.16    21891     0.10     1.93  Object#fib
 15.76     2.65      0.49    39601     0.01     0.01  Fixnum#==
 10.61     2.98      0.33    21890     0.02     0.02  Fixnum#-
  4.18     3.11      0.13    10945     0.01     0.01  Fixnum#+
  0.00     3.11      0.00        1     0.00     0.00  Module#method_added
  0.00     3.11      0.00        2     0.00     0.00  IO#set_encoding
  0.00     3.11      0.00        1     0.00  3110.00  #toplevel

fibメソッドを末尾再帰で書けたなら、fibメソッドの呼び出し回数は21回で済む。だからRubyでも検討する価値がある。

今8番目のフィボナッチ数を求める演算をfib8とすると、これは以下のように展開できる。

fib8 =  1*fib8 +  0*fib7
     =  1*fib7 +  1*fib6 = (fib6 + fib5) + fib6
     =  2*fib6 +  1*fib5
     =  3*fib5 +  2*fib4
     =  5*fib4 +  3*fib3
     =  8*fib3 +  5*fib2
     = 13*fib2 +  8*fib1
     = 21*fib1 + 13*fib0 = 21

各項の係数をそれぞれa, bとすると、各ステップでbには前のステップのaの値が、aにはa+bの値が与えられていることがわかる。また最後のステップをみると、fib0が0なので第2項の演算結果は結果的に答えに反映されないことがわかる。だから1つのfibメソッドにa、bを渡していき、fib1に達したところでaの値を返すようにすればいい。

def fib(n, a=1, b=0)
   if n == 0
     0
   elsif n == 1
     a
   else
     fib(n-1, a+b, a)
   end
 end
 
 fib 8 #> 21

これでフィボナッチを末尾再帰で実現できた。これなら1000番目のフィボナッチ数だって直ぐ求められる。

t = Time.now
 p fib 1000
 p Time.now - t
 #>43466557686937456435688527675040625802564660517371780402481729089536555417949051890403879840079255169295922593080322634775209689623239873322471161642996440906533187938298969649928516003704476137795166849228875
 0.001581

関連:Ruby、同じことの繰り返しは君に任せるよ ~ 再帰でハノイの塔を解こう!~

(訂正:末尾再帰であることはfibメソッドの呼び出し回数とは直接関係しないことが分かりましたので訂正します)

末尾再帰かどうかとfibの呼び出し回数には関係ないですよ。
アルゴリズムの違いが呼び出し回数に関係してます。
例えば、効率の悪い方のアルゴリズムを使って以下のように末尾再帰でfibを書けます。
def fib(n)
fib_loop([n], 0)
end

def fib_loop(arr, sum)
if arr.length == 0
sum
elsif arr[0] <= 1
fib_loop(arr[1..-1], sum+1)
else
fib_loop([arr[0]-1, arr[0]-2] + arr[1..-1], sum)
end
end> > Mozkさん
なるほど、僕の理解が違ってました。ご指摘助かります。

  1. [再帰:Wikipediaより](http://ja.wikipedia.org/wiki/再帰


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