全文翻訳は彼の意思である!~罪を憎んで人を憎まず
したがって、ブログにおける翻訳の公開についても、特に著作権者(この場合は村上春樹氏)からの許諾を得ていない限りは、全文の翻訳は違法であると判断するのが妥当でしょう。
世の中は危険がいっぱいである
通りを歩けばクルマに撥ねられないかと心配し
街に出れば通り魔に会わないかと心配する
家にいると電話が掛かってきて振り込め詐欺に遭う
仕方がないからネットに繋いでブログを書く
ところがここにも危険が待ち受けている
著作権法である
特許権とは異なり
著作権を得るのには何の手続きも要らない
思想・感情を創作的に表現すれば
その瞬間に権利があなたのもとに発生する
僕も無数の著作権を持っている
君も持っている
Rubyオブジェクトの比じゃない数だ!
だって子供の頃に書いた落書きだって著作物なんだから
僕が死んだって50年はだめだ
僕の宝箱から「ドレマンとドバチン先生」の絵を盗んで
ネットにアップしたら君はもう犯罪者だ!
僕の配偶者が幼なじみが君を常に監視している
そんな中で僕らは暮らしている
自由はどこに行ったんだ?
さて
全文翻訳の違法性が問われている
村上春樹のエルサレム賞受賞スピーチの件である
2つのことを考えなければいけない
1つは法に照らした行為の違法性についてであり
もう1つは違法と言うことの意味についてである
行為の違法性
「著作者はその著作物を翻訳する権利を専有する」
と著作権法27条に書いてある
id:pollyannaさんはこれを根拠に「全文翻訳は違法だ」と言っている
でも僕はそう思わない
この規定は「著作者が著作物を翻訳する権利を自由にできる」
といっているのだと理解する
つまり他人が勝手に翻訳を作ってそれを公表したら
著作者はダメだということもできるし
一定の条件の下で許可することもできるし
あるいは放置することもできる
それがいいか悪いかは著作者が決める
それは丁度所有権の対応に似ている
僕のアップルパイを隣のおっちゃんが勝手に食べたら怒るけど
かわいい女の子が食べたら僕は怒らない
だから翻訳問題の違法性は村上春樹が翻訳をしたブロガーたちに
具体的にアクションを取ったときに問われるべきもので
当事者ではない僕らが
それらの行為を違法と判断することはできないと思う
また仮に村上春樹がアクションを取るにしても
それはその行為の差し止めが限度ではないだろうか
果たして彼らの行為が村上氏に損害を生じさせ
また彼らが不当な利得を得ているといえるだろうか
彼らの行為は著作権法が目的とする
「文化の発展」の妨げになっているのだろうか
僕にはとても思えない
違法と言うことの意味
村上春樹のスピーチはなぜこんなにも注目を集め
多数のブロガーによって翻訳されたのだろうか
その理由は明らかである
内容が素晴らしいからである
オバマスピーチ同様
歴史に残るほどの素晴らしさがあるからである
その英文を読んだ彼らはそれを伝えたかった
村上春樹の言葉を他の日本人にも伝えたかった
そしてそれは村上春樹自身が望んだことである
彼は言う
So let me tell you the truth. A fair number of people advised me not to come here to accept the Jerusalem Prize. Some even warned me they would instigate a boycott of my books if I came.(中略)
Any number of times after receiving notice of the award, I asked myself whether traveling to Israel at a time like this and accepting a literary prize was the proper thing to do, whether this would create the impression that I supported one side in the conflict, that I endorsed the policies of a nation that chose to unleash its overwhelming military power.(中略)
Finally, however, after careful consideration, I made up my mind to come here.(中略)
And that is why I am here. I chose to come here rather than stay away. I chose to see for myself rather than not to see. I chose to speak to you rather than to say nothing.
ということで真実のことを話させてください。かなりの人が私に、ここに来てエルサレム賞を受けないようアドバイスしました。私が行くなら私の本のボイコットを扇動すると警告する人までいました。(中略)
受賞の知らせを聞いてから何度も自問しました…(中略)
しかし結局よく考えた末、ここに来ることを決心しました。(中略)
それが私がここにいる理由です。遠くにいることより来ることを選びました。見ないことより自分自身で見ることを選びました。何も言わないことよりみなさんに話をすることを選びました。
村上春樹は迷った揚げ句
イスラエルに行った
彼の言葉をみんなに伝えるために
果たしてそんな彼が
このスピーチを訳し公開した彼らを
彼の言葉を伝える担い手たちを
彼の権利の略奪者だとして訴えることを誰が想像できるだろうか
彼らはそのリスクに恐怖すべきだろうか
そんな必要はない
村上春樹が彼の父の話をした
He was praying for all the people who died, he said, both ally and enemy alike. Staring at his back as he knelt at the altar, I seemed to feel the shadow of death hovering around him.
父は死んだすべての人々のために、それが敵であろうと味方であろうと、祈っていると言いました。仏壇の前に座っている父の背中を見ているときに、私は彼の回りに浮遊している死者の影を感じ取りました。
My father died, and with him he took his memories, memories that I can never know. But the presence of death that lurked about him remains in my own memory. It is one of the few things I carry on from him, and one of the most important.
父は死に、その記憶、私が決して知ることができない記憶を共に持ち去りました。しかし彼の回りに潜んでいた死の存在は、私自身の記憶に残りました。これが私が父から受け継いだ僅かな、そしてもっとも重要なことの一つです。
村上春樹は父が死に
戦争によってすべての人が
敗北の中へ消えていった
と言いたかったのかもしれない
そして彼の記憶にはシステムの作り出した
死の存在だけが残った
Take a moment to think about this. Each of us possesses a tangible, living soul. The System has no such thing. We must not allow The System to exploit us. We must not allow The System to take on a life of its own. The System did not make us: We made The System.
このことについてもう少し考えてみてください。私たち一人ひとりは形ある生きた命を持っています。「システム」はそのようなものを持っていません。私たちは「システム」が私たちのことを食い物にすることを許してはなりません。「システム」が自身の生命を身に付けることを許してはなりません。「システム」が私たちを作ったのではなく、私たちが「システム」を作ったのです。
「法」は私たちが作ったシステムです
「法」が社会の秩序を作ります
「法」に暴走させてはいけません
私たちが「法」をコントロールするのです
これも彼が言いたかったことの一つ
にきっと違いありません
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